「防災備蓄は自治会費で買っている。退会したなら避難所に来るな」——豪雨の夜、避難所でこう怒鳴ってしまった男性がいます。
近年、異常気象による水害が各地で多発するなか、いざという時に身を寄せる避難所で、近隣住民同士のトラブルが起きていることをご存知でしょうか。今回は、実際にあったトラブル事例をもとに、現代の「自治会」が抱えるリアルなジレンマに迫ります。
1. 減り続ける自治会加入率と世代交代の波
総務省の調査によると、令和3年度の全国自治会加入率は71.8%と、平成22年度の78.0%から顕著に低下しています。危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏も、「自治会への加入は自由意思である一方、地域の防災や安全を支えているのは事実であり、時代に合った見直しが必要だ」と指摘しています。
地方の小さな町に住む40代後半の会社員、井島純太さん(仮名)も、地域の大きな変化に直面した一人です。井島さんの地元では、長年町を取り仕切ってきた高齢の役員たちが、体調不良や施設入所などを理由に次々と引退。仕方なく井島さんら息子世代が役員を引き継ぎました。しかし、使途不明な飲み代や高すぎる会費など、旧態依然とした慣習の改革に追われることになりました。
2. 避難所で起きた「退会者」との激しい口論
自治会の立て直しに奔走する井島さんを悩ませていたのは、「実家の親や兄が加入しているから」と理由をつけ、示し合わせたように自治会を退会していた、分家した同世代の世帯主たちでした。
ある日、線状降水帯による豪雨が発生し、井島さんたち役員は避難所である公民館の開設準備に向かいました。すると、自治会を退会したはずの住民(幼なじみの弟)が、家族全員で一番乗りに避難してきたのです。
日頃から非協力的な態度に不満を募らせていた井島さんは、思わずこう怒鳴ってしまいました。
「防災備蓄は自治会費で買っている。困ったときだけ町内を頼るのか。退会したなら避難所に来るな」
対する退会者の男性も反論します。
「非会員は見捨てられるのか? 公民館は市が建てて運営しているのに、あんたにそんなこと言う資格あるのか。かっこつけるなよ」
3. 「助け合い」か「搾取」か? 拭えないモヤモヤ
「災害時には会員・非会員に関係なく助け合うのが当たり前だと、頭ではわかっている」と井島さんは語ります。しかし、公民館という「場所」こそ市の施設であっても、そこに備えられている簡易トイレや食料などの備蓄品は、すべて自治会費、つまり会員の負担で賄われているのが現実です。
• 自治会側の主張:お金を負担せず、運営にも協力しないのに、いざという時だけ備蓄品を利用するのは「搾取(タダ乗り)」ではないか。
• 退会者側の主張:避難所は公共の施設であり、命の危険がある災害時に非会員だからと排除されるのはおかしい。
この口論をきっかけに、町内には分断の空気が流れてしまったといいます。もしさらに深刻な災害が起き、ライフラインが絶たれたとき、限られた備蓄品をめぐって再び争いが起きるのではないかと、井島さんは深い不安を抱えています。
まとめ
地域のつながりが希薄になるなか、自治会のあり方は大きな転換期を迎えています。「命を守るための助け合い」と「費用や労力を負担する者としての納得感」をどう両立させていくのか。これは決して対岸の火事ではなく、どの地域でも起こり得る現代の課題と言えそうです。
あなたはこのトラブル、どちらの言い分に共感しますか?